赤と白のウニ
積丹半島の夏の美味
粘りの強い細目昆布を食して育つ積丹半島のウニ。 濃厚で赤いエゾバフンウニ。 やや濃厚で白いキタムラサキウニ。 どちらも、人々の地道な努力と手間暇で 生まれる自然な美味。積丹半島の古平の ウニ生産量は僅かに赤が2トン、白は5トン。 その多くは地元で消費され、域外への流通はわずか。 まさに幻の美味なウニ。
積丹半島の豊かな山々と 美しい海
積丹半島は火山半島です。ミネラル豊富な土壌には豊かな森が育ち、豊かな森から流れる清流と南からの対馬海流が、寒い北海道にあって豊かな海を育みます。
積丹半島の海に生えるのは細目昆布。おぼろ昆布やとろろ昆布の原料にされる、粘りの強い昆布です。
利尻昆布ではなく、細目昆布であるが故の 積丹半島のウニの魅力
上質なことで有名な利尻昆布は磯の香りが強い為、乾燥させてから1年間寝かされることが多いです。つまり、利尻昆布は素晴らしいが故に、生の状態では、ある意味で昆布らしい性質が強すぎるかもしれません。
その利尻昆布を食して育つウニには、どうしても利尻昆布の持ち味がストレートに出がちです。もちろん、それはそれで魅力的なウニに育ちます。それに対して積丹半島のウニは純な味が魅力です。ウニらしい癖は弱く、クリーミーで甘みが際立ちます。
(写真右:あふれるばかりのキタムラサキウニ。通称は白。)
豊かな海とウニ資源を守り育てる活動
平成16年に古平・美国・積丹の3か所の漁業協同組合が合併してできた東しゃこたん漁業協同組合では、資源保護と資源育成の為に、色々な活動をしています。
ウニの生育に適した海を守り、上質なウニを育てる為に、深浅移植・植樹活動・海中造成事業・囲い礁設置・自然石投石・岩盤清掃・うに種苗購入(種苗放流)・磯焼け防止など、様々な活動をしています。
また、横行する密漁を防ぐ為、古平、美国、積丹3地区の浅海部会による密漁監視は365日2名体制にて見回り監視で行われています。
ウニの漁場は積丹半島の前浜
丹後半島のウニ漁は6月〜8月の夏場に限ります。自然と組合員が育てたウニを船上から挟み獲る漁と潜水による漁で水揚げします。私が訪ねたのは、古平のウニ部会。部会長の長谷川孝博さんを中心にチームワークよく、ウニを獲ります。朝早くから古平の前浜で獲れた元気なウニが、加工場に運ばれ、手際良く、丁寧に海水ウニに仕上げられます。
生産量 赤は約2トン、白でも約5トン
積丹半島の古平のウニ部会の生産量は年によって違いはありますが、ここ数年に限れば、多い白が5トン前後、少ない赤が2トン前後です。ウニ漁の期間に積丹半島を訪ねるとわかりますが、主要道路沿いの食事処には『うに丼』の看板が立ち並んでいます。つまり、そもそも生産量が少ない上に、地元で消費されてしまうので、域外に流通する古平のウニは極僅かです。
日本国内のウニ生産量は10,800トン(2008年)、輸入は14,000トン(2009年)。合計すれば、日本のウニの消費量は約2万5千トンということになります。積丹半島の古平地区のウニ生産量は7トン。消費量の0.03%にも満たない量です。まさに、幻の美味なウニと呼んでも過言ではないです。
水揚げの約7割が白、約3割が赤、 さらに約1割だけが商品に
例えば、漁師のAさんが10kgのウニを獲ったとします。おおよそですが、7kgが白(キタムラサキウニ)、3kgが赤(エゾバフンウニ)になります。殻を割り、食用となる卵巣と精巣を集め、きれいに掃除して、製品化しても、白が7箱(100g入りの海水ウニ)と赤が3箱(100g入りの海水ウニ)にしかなりません。
さらに、色の悪い規格外のウニは外すので、実際にはもっと少なくなります。その為、如何に良いウニを獲るかによって、加工の効率も違ってきますから、漁師の腕が物を言います。
もちろん、それ以前に、豊穣な海でなければ、良いウニは育ちませんから、日々の様々な活動にはとても意義があります。
徹底的に手間をかけて無添加にこだわる 古平うに部会
漁師の皆さんが獲ってきたウニを割り、選別して、海水の仕込みに入ります。
先ずは冷やした塩水を5つの桶にはり、3人の女性が食用部(卵巣・精巣)だけを残し、何度も洗ってウニの純度を上げていきます。
その作業はまさに手間暇。複数の人間の目で様々な角度から、ウニのごみを取り除きます。また、何度も何度も塩水で洗うことで、無添加でもある程度の日持ちが可能になります。
商品表示では無添加と書いてあっても、加工プロセスで表示義務のない添加物を使っている産地もあるようですが、古平のウニは正真正銘『原材料:ウニ、食塩』です。
洗いのプロセスは水を換えて、もう一度行い、完璧に仕上げていきます。 こうして、仕上げで人工海水を詰められた完成品は、雑味のない、上質でクリーミーな味に仕上がります。北海道内はもちろん、築地市場でも、積丹半島のウニは高く評価されていますが、その多くが域外に流通することなく、地元で消費される為、一般に流通する量は極めて少ないです。
6〜8月のウニ漁期、積丹半島の道路沿いの飲食店は『うに丼』の看板に埋め尽くされます。『そんなにウニって獲れるのかな?』と古平の寿司屋の板前さんに伺ったところ、『積丹半島のウニは北海道で一番値段が高いくらいだから、安いうに丼を出している店は他産地のウニを使っている場合があるから、要注意。』だそうです。
いずれにしても、相当量のウニは地元消費されるので、域外に流通する量は限られているのも納得です。
濃厚な赤 少し優しい白 どちらも、先ずは何もつけないで
醤油も山葵もなくて、十分に美味しいはずです。海水の塩だけで、自然な甘みと濃厚で舌にまとわりつく食味は絶品です。苦みとは全く無縁。ウニが卵と白子であることを、改めて認識する瞬間です。
(文・株式会社 食文化 代表 萩原章史)
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