神楽坂のチーズ専門店 アルパージュ
チーズ専門店アルパージュ
チーズは熟成することで完成する食べ物といわれている。
歳月が育てる深い味わいは、人間の手だけでは生み出せない微生物の力によるものだ。
たとえば、最低でも12カ月以上(一般に出回るものの多くは2年以上)熟成させてつくるイタリアのハードチーズ、パルミジャーノ・レッジャーノは、経年によって明らかにその味わいが異なり、熟成が進んだものは、旨味成分であるアミノ酸の白い結晶が、はっきりと目に見えるほど。
また、近年、日本でも人気の高いフランスのミモレットも、熟成によって食感や風味、オレンジ色の濃度が少しずつ変化し、独特の味わいと余韻が生まれることで知られている。
「チーズの熟成は、内部から熟成していくハードチーズや青カビ、シェーヴルなどと、外側から内部に向かって熟成する白カビやウォッシュチーズなどに分けられます。
パルミジャーノやミモレットのようなハードタイプは、中に潜む微生物の力により、経年とともにタンパク質をアミノ酸に、脂肪を脂肪酸に分解することで熟成が進んで旨味成分が増すことで、日本のだしのような独特の風味が生まれるのです」
そう言うのは、東京・神楽坂のチーズ専門店「アルパージュ」の店主、森節子さん。特に長期熟成のパルミジャーノは製造過程で酸化しないように、原料のミルクの脂肪調整を行ない、チーズを硬く熟成させるために凝乳(カード)を専用のスピーノと呼ばれる球状のカッターで米粒大に細かくする。さらに撹拌しながら温度を53℃以上に上げて脱水を促し、圧搾して水分を抜くといった周到な下処理がなされる。その後、25日間塩水に漬けて、反転させながら熟成庫で最低12カ月以上熟成させ、ようやく完成する。
むろんその間も、ただねかせておくわけではない。有効菌の活性を高めるため、温湿度の管理が行き届いたカーヴで反転させながらじっくり熟成。強い表皮をつくるために、表面を何度もブラッシングして磨き、雑菌から内部を守るのだ。
こうして数年かけてつくられるパルミジャーノは商品価値が高く、イタリアではこれを担保に銀行からお金を借りることができるほど信用があるという。
一方、ミモレットは出来上がった球状のチーズに、チーズに付くシロンと呼ばれるダニの一種を付着させて、温度12〜13℃、湿度92%のセラーに入れて2カ月以上熟成させたもの。最初はしっとりと弾力があり、次第に心地よいほろほろとした食感に。2年もたつと水分が抜けて、まるでからすみのような奥深い味わいを醸し出す。
森さんによれば、長期熟成の限界は「チーズの旨味がなくなり、苦味や酸化した風味が出てきたら」。歳月とともに旨味の塊へと変化し、重厚な味わいになるのがハードチーズの奥深さ。熟成具合によって、それぞれの香りやテクスチャー、味わいの違いを楽しめるのが魅力だ。
熟成によって、食感も味わいも刻々と変化するウォッシュチーズ。熟成士がさらに手をかけて追熟させることで、その魅力が一層花開く。
(解説・森節子「アルパージュ」店主 文・瀬川慧 撮影・飯貝拓司)
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