いりこの価値を変える「伊吹いりこ」
「伊吹いりこ」を出汁素材とだけ認識するのは過小評価だ
当然、上質な出汁は取れるが、伊吹いりこの値打ちはそれ以上
伊吹島の加工場で釜揚げされる大羽(※)から立ち上る湯気は、どこかで嗅いだ匂いがする…何の匂いだろう?
そうだ釜揚げシラスの匂いだ!
釜揚げ、熱々の大羽(※)カタクチイワシを食べてびっくり!何とシラスの味。
脂がなく、ピュアな味はまさに巨大シラス!巨大な釜揚げシラスが約12時間の乾燥行程を経て、水分18%以下の究極のいりこに変身する。食べても美味!そこが伊吹いりこと他のいりこが違う証。※8センチ以上のいりこを大羽(オオバ)と呼びます。
日本一との評価を得る「伊吹いりこ」
香川県の北西に浮かぶ伊吹島は日本一のいりこ産地
約1㎢の小島だけで、驚異的ないりこ生産量と生産額を誇る。
文久2年(153年前)、三好喜八がいりこを作り始め、現在、17の網元が伊吹島の周りの海で片口鰯を獲り、水揚げから早ければ10分、遅くとも30分以内に、網元の加工場のいりこ製造ラインに流れる。
釜揚げ後、イワシの大きさにより、3〜12時間で乾し上げる。
脂が少ないカタクチイワシを狙い、水揚げから加工までの品質維持と時間短縮の為には、金も労力も惜しまない!
伊吹島のいりこ作りに携わる人々のこだわりと、
日本一の意地と、網元一貫生産が最高品質のプレミアムいりこを生む。
食べて驚き、出汁をとって納得の究極のいりこそれが伊吹いりこ
伊吹いりこの素晴らしさには訳があります。
最高の漁場+最高の設備+最高のいりこに
こだわる伊吹島の人々=伊吹いりこ
ですが、その詳細を案内する前に、
私が食べて感動した体験をお話しします。
大羽いりこの天ぷら、これが妙にうまい!
香川県漁連を訪ねたのは2014年10月15日。
その時、担当の漁連の松本茂さんが満を持して試食させてくれたのが、伊吹いりこ(大羽)をそのまま揚げた天ぷらです。
「うまい!うまい!いりこの天ぷら?
どんな下拵えしたんですか?」萩原
「市販の天ぷら粉で伊吹いりこを揚げただけ。頭も内臓もそのままで。」松本さん
私は一生忘れないでしょう。この時の松本さんのドヤ顔。
自他ともに認める食いもんに詳しい人、
食にこだわる私の度肝を抜いたのです。。
「何で?この料理が居酒屋とかの定番にならないのかな?」萩原
「伊吹いりこの関東向け出荷は殆どないから、東京の人は知らんでしょう」松本さん
実際、香川県のいりこで、関東以北に流通するのは5%にも満たないほどです。
究極のホールフーズでアンチエイジングだ!
1日7尾の大羽いりこを食べれば、きっと良いぞ!
伊吹いりこは脂が少ない原魚を使い、最高の鮮度状態から、短時間でいりこに加工されるので、酸化が極めて少ないです。その為、酸化防止剤を使っていません。
普通のいりこに有りがちな脂やけ(褐変)はなく、銀鱗をまとった固いいりこです。
これを天ぷらにすると、恐らく、油が固い身を柔らかにしてくれて、ちょうど良い具合になるのだと思います。
兎に角、この天ぷらは美味!カルシウム・鉄も豊富だし、皮や内臓ごと食べられるので、必須ミネラル類やビタミン類も色々と摂取できる、素晴らしいホールフーズです。
さらに、亜鉛もタンパク質(約65%はタンパク質)も豊富だし、EPA・DHA、タウリンも豊富とくれば、究極のアンチエイジング素材でパワーフードとも言えるかもです。
『大羽いりこの天ぷらが俺たちを救う!』そんなキャッチが似合います。
もちろん、揚げる油は上質な油でないと意味が無いですが・・・
一日大羽いりこ7尾を食べよう!
大羽いりこ1尾を1.6gとして計算すると、7尾を食べると男女ともカルシウム不足を補えるだけでなく、女性の場合は鉄と亜鉛不足も補えます。
男性は 大羽いりこ7尾でカルシウム不足解消
女性は 大羽いりこ7尾でカルシウムと亜鉛は不足解消 鉄も不足の約2/3は補填
最高のいりこ原料の漁場の真ん中に伊吹島はある
伊吹島のある燧灘は海流が穏やかで、内海を好むカタクチイワシの好漁場です。
伊吹島の網元たちは、目の前の海でカタクチイワシを獲ることができます。傷みやすいカタクチイワシは鮮度が命。それだけに、伊吹島はいりこ作りの最適地と言っても過言ではないです。
脂肪の多い「脂いりこ」になる
カタクチイワシは獲らない
鮮魚の段階で脂肪含有率が2%を超えるカタクチイ
ワシをいりこに加工しても、脂いりこと呼ばれる、粗悪ないりこにしかなりません。その為、伊吹島の漁師たちは、カタクチイワシの状態をつぶさに観察して、良い原料を狙って漁をしています。脂が多いカタクチイワシの群れだと休漁するほどです。
これだけのハイパワーエンジンは一日にドラム缶で6本も7本も油を食うようです。
この高速運搬船からカタクチイワシはフィッシュポンプで加工場に流れていきます。
作業が終われば、僅か10分〜30分の輸送時間の為に、大量の海水氷を船倉に積み込んで、網船に向かいます。大量の氷によって、カタクチイワシは氷締めで仮死状態になり、鮮度の劣化を防ぐことができます。
伊吹島は昭和42年に海底送電ケーブルを設置して、フィッシュポンプと乾燥機を導入しています。昭和51年頃から製氷施設、昭和60年にはサイズ線別機と次から次へ新しい設備を導入し続けてきました。
それもこれも、少しでも上質ないりこを作る為です。
カタクチイワシの漁期は梅雨時〜台風シーズン。天日干しで上質ないりこの目安である水分量18%以下に下げるのには、大変な時間が掛かり、当然ですが、いりこは酸化します。そこで、伊吹漁協は早くから電気による乾燥機を導入しました。
何と昭和42年にはフィッシュポンプが導入。
まだ生きている魚は加工場にポンプアップ!
圧倒的鮮度で釜揚げ!活け締めになるカタクチイワシもいる!
高速運搬船からフィッシュポンプを通って選別機に入り、カタクチイワシだけが「す※セイロのこと」に並べられます。10枚ほど重ねられた「す」が、
沸騰した塩水に入り、3分〜5分でカタクチイワシは釜揚げにされます。
その後、40度の機械乾燥で大羽は12時間ほどかけて乾燥させます。
銀鱗ぴちぴち状態だったカタクチイワシが釜揚げされて、少しは鱗が落ちていますが、まだまだピカピカです。「す」から直接、乾燥前のイワシを試食させてもらいましたが、その味はまさに釜揚げシラス。大きいだけで、シラスそのものです。
もちろん、内臓が大きいから、苦みもありますが、これはこれで素晴らしい酒肴です。
熱々ご飯に乗せて、醤油を垂らして食べても良いかも・・・・いずれにしても、産卵後の脂が抜けた親カタクチイワシは最高のいりこになります。
乾燥後は先ずは目でチェック!
その後、選別機に
私が訪ねた富山晴良組合長の工場では、まさに大羽いりこの目視での選別の真っ最中でした。折れたものや、柔らかいのは、取り除きます。
※一回前の網入れで、網に引っかかったまま残ったカタクチイワシが、折れや割れになるそうです。
富山組合長は私と話をしている間も、何尾も何尾もいりこを食べています。
「今回の水揚げ分は、最高一歩手前だな、少し小さいかな・・」富山組合長
恐らく、食べることで、脂の具合や乾燥の具合を確認しているのだと思います。
①魚種の選別後、洗浄され釜揚げのセイロに自動で広げられる
②この時点では生きているカタクチイワシもいます
③10枚ほどのセイロが沸騰した塩水で3分〜5分釜揚げにされます
伊吹漁協の富山晴良組合長。
従業員に混じって目視で検品、
折れや腹割れなどをはじきます。
新しいものを導入する気質は三好長慶の血筋か
最近、評価が見直されている、信長よりも先に「戦国天下人」になった三好長慶。
信長の功績とされる、鉄砲・キリスト教布教・築城技術・茶の湯の確立などは、三好長慶時代なくしては、存在しなかったと言えるほど、三好長慶は進取の精神の持ち主でした。
実は伊吹島の住民の半数ほどが三好姓。長慶の家督を継いだ三好義継は足利義昭を匿った為、信長に討たれ(若江城の戦い)、妻子一族を自らの手にかけ、その後、10日以上も奮戦し、最後は自害したと伝えられています。
香川の伝承では、義継の嫡男の義兼、次男の義茂は生きて、伊吹島に逃れたと伝えられています。
だから、伊吹島は三好姓が多いのか?先進的な三好DNAが伊吹島の人々のチャレンジ精神や新しいものを導入する進取の精神の元になっているのでは?そう私は思いました。「いりこホリック」とでも呼びたい伊吹島の人々。きっと血筋が違います。
資源保護への取組み
最先端の設備を整え、品質改善につとめた甲斐もあり、伊吹いりこの生産量は4,000トン前後に推移していましたが、平成5年から乱獲の影響などで、1,000トン前後まで水揚げが落ち込みました。
そこで、香川県では愛媛・広島県の漁業者と燧灘のカタクチイワシの資源回復活動に取組み、平成12年以降は2,000トン前後にまで回復したものの、まだまだ、資源回復の足取りは弱いです。
そこで、現在も操業許可期間(香川県は6/10〜翌1/15)に関わらず、休漁期間(5/15〜6/9及び12/1〜1/15)の設定と、定期休漁日(香川県は木・日曜日)の設定で資源保護に勤めています。
うどんが先か?いりこが先か?
香川はうどん県として有名ですが、小麦と塩と醤油の産地であっただけでなく、讃岐うどんの太い麺と強いコシに負けない、濃厚で旨味の強い「いりこ出汁」があったからとも言えます。
もちろん、香川県のいりこ消費量は全国トップクラスです。
少子高齢化が伊吹いりこの危機を招くのか?
昭和30年代は4,000人台だった伊吹島の人口も、最近では580人を切るほどまで減少し、高齢化率も5割に迫る勢いで人口減少と高齢化が進んでいます。
就業人口の7割近くが、カタクチイワシ漁といりこ加工に携わっていることから、人口減少が将来のいりこ生産に与える影響は極めて深刻と言わざるを得ません。
特にいりこ漁と加工は繁忙期が夏に集中し、それ以外の期間は島を離れ、本土で他に仕事に従事することになるので、人口流出が起きやすいと言えます。
人口が減るから、商店も減り、医者も常駐しなくなり、ますます不便となり、さらに人が減る悪循環は深刻です。
介護サービスも島内にはなく、高等学校もない・・
本土との定期船は老朽化し、観光客も増えない・・・
このままでは、10年後、20年後、伊吹いりこは幻になってしまわないか・・心配です。
素晴らしい日本の食文化である伊吹いりこ
我々にできるのは、せっせと美味しい伊吹いりこを食べて、出汁を飲んで応援!
それに尽きます!
(株)食文化 代表 萩原章史
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