栃木県の北端、梨産地の那須野では最上級クラスの梨を「自信作」と呼び、梨好きの間では「なかなか手に入らない美味な梨」と高い評価を得ています。 「自信作」とはどんな梨なのか?自信作と呼ぶくらいなのですから、よほど生産者も自信があるのに違いない……百聞は一見にしかず。産地を訪ねてみました。
栃木県は全国第4位の収穫量を誇る梨の名産地。日照時間が長く、肥沃な土地と良質な水に恵まれた栃木県は、梨の生育に理想的な条件が揃っています。 那須野の梨の中で最高ランクの10%前後が『自信作』を名乗れます。 その中でも10kgで24玉の特大サイズに絞ると、1〜2%と極めて貴重です。
美味い梨を生み出すノウハウ
梨作りの名人 JAなすの 梨部会長・鈴木一男さんの梨園にお邪魔したのは8月下旬。ちょうど露地物の一番手の梨・幸水の収穫期が始まったころでした。
梨園に入った第一印象は「ずいぶん梨棚が低いな」ということ。枝の高さが165cm程度で、梨をもぐには腰をかがめなくてはいけません。実はこれ、枝を上から支えるワイヤーが、梨の重みで下がってしまったせい。
今年の梨は大玉に育ったため、当初180cmに設定していたワイヤーが予想以上に低くなってしまったそうです。
「梨づくりでは枝の剪定が大切。12月から3月にかけて剪定を行い、新梢が伸びた後の6月にも剪定をします。枝を切られたうえに実をつけなければいけないから、木にとっては厳しい状況。でも、弱る寸前のぎりぎりまで枝を剪定することが、甘い梨を作るには重要なのです。枝や新芽が整理されれば日光がよく当たり、糖度も上がるしね」 と、鈴木さん。
うまい梨はスパルタ環境で育成されるのです。
剪定以上に大切なのが間引きです。4月の摘蕾(開花前につぼみを間引くこと)を皮切りに、7月の仕上げ摘果まで、余分な実や傷付いた実を間引いていきます。
花を咲かせたり、実を付けるには多くの栄養分が必要。大きく形のよい梨に育てるには、ひと枝に8個以上の実をならせないのがポイントだそう。ほかにも草刈り、遅霜対策、病害虫の防除、梨棚の管理、土壌管理、水管理、老木の改植など、年間を通じて多くの作業があります。
こうした管理・栽培ノウハウは、栽培講習会を通じてJAなすのの梨農家全体に伝えられています。
JAなすのでは全生産品種について、秀品(最も高い品質基準)の中でも最上級の梨に「自信作」という等級名をつけています。その条件は糖度13度以上、大玉で色や形がよいこと。自信作とは、あまりに直球勝負なネーミング。その誕生の背景をJAなすの菊池さんに聞いてみました。
「栃木県では平成15年から梨の糖度認証制度を開始しました。県内で生産される梨を非破壊式糖度センサーで全量検査し、糖度が12度以上(ほとんどの人が甘い、おいいと感じる糖度)を超えたものをマーケティング協会が糖度認証品として認証します。この糖度センサーを平成8年、県内で最初に導入したのがJAなすのでした」。
糖度センサーの導入を機に、地域の梨農家が一体となって、糖度を上げるための栽培方法を試行錯誤してきました。その結果、平均糖度が約2度も上がり、出荷の最低基準となる糖度も9度から10度にアップ。13度を超える梨もできるようになったのです。
梨づくりでは味はもちろん、安全性や安心にも配慮しています。農薬の使用量・回数を極力減らした栽培を行い、栽培履歴もきちんと記録しています。
「肥料は有機質が主体で、土地の性質にあった施肥設計をしたうえで肥料を与えています。ただ、施肥量はほかの産地と比べると少なめだね」(JAなすの梨部会長・鈴木一男さん)。
理由を聞くと「肥料が多すぎると、養分が木のほうに行ってしまって病気が起こりやすいし、果実の色の出もよくない。1年で木が食べつくす程度に、適量の肥料を与えることがポイントになる」。
栃木県の今年の梨の出来は上々だそう。花がつく時期が例年より1週間程度遅れ、空梅雨による水分不足も一時心配されましたが、夏の日照が良好だったため、糖度が高く、大きめに育っています。
梨のシーズンはこれからが本番。
自信作 是非食べてみたいものです。
特に数が非常に少ない大玉は絶品とのこと。
(文・株式会社 食文化 代表取締役社長 萩原章史)
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